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夫婦の一方が老人ホームの入居一時金を負担した場合、贈与税は課されるのでしょうか。
夫婦の一方が費用を負担した場合の課税関係
●ホームへの入居一時金
施設の終身利用権の対価であり、家賃の前払い金でない
●入居者でない配偶者が負担した一時金
夫婦間の贈与に当たる
●相続税法21条の非課税贈与に該当するか検討
社会通念に従って判断する
・入居する配偶者が要介護状態で自宅での介護が困難
・入居する配偶者に資力がない
・ホームへの入居は、自宅での介護を伴う生活費の負担に代わるもの
・ホームは、自宅での生活状況と同程度のものである
夫が費用を負担した場合の課税関係
基礎事実
■ 介護付き有料老人ホーム
■ 契約者 妻
■ 入居者 妻(80代、要介護4)
■ 契約内容 終身利用権
■ 入居一時金 945万円
・入会金 105万円(返還されない)
・施設協力金 105万円(返還されない)
・一時入居金 735万円
(20%即時償却、残額は5年定額償却)
■ 月額利用料 238,500円
被相続人の配偶者が介護付有料老人ホームへ入居する際に被相続人が支払った入居金
平成19年12月29日 妻が入居
平成20年1月26日 夫が同老人ホームへ入居
平成20年5月 同老人ホームにて夫が死亡
●被相続人が返還金相当額の金銭債権を有していたのか
一定の役務提供を終身にわたって受ける地位に対する対価の支払いで、定額償却部分の償却期間が経過しても居住を続けられることからすれば、定額償却部分を純粋な家賃等の前払分と判断することは相当でない。
●被相続人の入居金の負担は、配偶者にとって非課税か
配偶者には、入居金を一時に支払うに足る資産がない
被相続人がこれを支払い、配偶者に返済を求めないというのが、入居契約時に、被相続人及び配偶者の合理的意思であると認められるから、入居金支払時に、被相続人及び配偶者間で、入居金相当額の金銭の贈与があったと認めるのが相当
生活費に充てるために通常必要と認められるものであるか
① 配偶者は、高齢かつ要介護状態にあり、被相続人による自宅での介護が困難になったため、介護施設に入居する必要に迫られ老人ホームに入居した。
② 老人ホームに入居するためには、入居金を一時に支払う必要があった。
③ 配偶者は入居金を支払う金銭を有していなかったため、被相続人が入居金を配偶者に代わって支払った。
④ 被相続人にとって、入居金を負担して老人ホームに配偶者を入居させたことは、自宅における介護を伴う生活費の負担に代えるものとして相当であると認められる。
⑤ 老人ホームは、介護の目的を超えた華美な施設とはいえず、むしろ、配偶者の介護生活を行うための必要最小限度のものであったと認められる。
被相続人による入居金の負担、すなわち被相続人からの贈与と認められる入居金に相当する金銭は、介護を必要とする配偶者の生活費に充てるために通常必要と認められるものであると解するのが相当
贈与税の非課税財産については、相続開始日前3年以内の贈与であっても相続税の課税価格に算入しないから、
入居金に相当する金額については、相続税の課税価格に算入されない。
夫が費用を負担した場合の課税関係
基礎事実
■ 住宅型有料老人ホーム
■ 契約者 妻(追加契約者 夫)
■ 入居者 夫婦で入居(妻は介護が必要な状況にない)
■ 契約内容 利用権
■ 入居一時金 13,370万円、夫の追加金700万円
(入居時即時償却 15%、残額は 180ヶ月で償却、契約終了時の未償却残高は返還)
■ 月額利用料 約46.2万円(夫婦併せて)+有料サービス
一時金のうち1,010万円を妻が支払い、残額を夫が拠出
平成19年4月30日 夫婦で入居
平成19年7月 夫が死亡
●入居契約の主体はだれか
被相続人及び配偶者は、配偶者を主契約者にするという明確な認識のもとに本件入居契約を締結したものであると認められる。
配偶者は、仮に被相続人が配偶者より先に死亡したとしても、引き続き本件老人ホームで生活することを予定していたものであるから、主契約者に劣後する地位にある追加契約者ではなく、主契約者として契約を締結したと解するのが当事者の合理的意思に合致する。
また、平成19年6月分以降は、主契約者としての費用を支払っていることからすれば、本件入居契約の主体(主契約者)は、配偶者であると認めるのが相当。
●被相続人が入居金の一部を負担したことによって、相続税の課税対象となるものはあるか
追加契約者たる被相続人は、自らに支払義務のない主契約者たる配偶者に係る入居金のうちの一部に相当する金額を支払ったものであり、これにより配偶者は、入居金(133,700,000円)の支払によって初めて取得することのできる施設利用権を、低廉な出捐(10,107,218円)によって取得したものと認められる。
配偶者は、著しく低い価額の対価で老人ホームの施設利用権に相当する経済的利益を享受したものということができ、被相続人及び配偶者間に実質的に利益の移転があったことは明らかである。
配偶者は、その利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額(対価の支払があった場合には、その価額を控除した金額)を被相続人から贈与により取得したものとみなすのが相当。
被相続人による出捐は配偶者にとって非課税か否か
相続税法第21条の3第1項第2号は、
扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるものの価額は贈与税の課税価額に算入しない旨規定している。
そして、相続税法基本通達21の3-3は、相続税法第21条の3第1項第2号の「生活費」とは、
その者の通常の日常生活を営むのに必要な費用(教育費を除く。)をいう旨定めており、それには、日常の衣食住に必要な費用のみでなく、治療費、養育費その他これに準ずるものを含むものとされている。
そこで本件を検討するに、
入居金は133,700,000円と極めて高額である。
居室面積も広く、共用施設として、フィットネスルーム、プール等が設けられ、本件老人ホームの施設利用権の取得のための金員は、社会通念上、日常生活に必要な住の費用であると認めることはできない。
本件老人ホームは介護付有料老人ホームではないこと、
配偶者は介護状態になく、老人ホームに入居することが不可避であったとも認められない。
以上からすれば、
入居金は、配偶者の日常生活に必要な費用であると認めることはできないから、相続税法第21条の3第1項第2号の規定する「生活費」には該当しない。
したがって、入居金のうち、被相続人が支払った金額は、贈与税の非課税財産に該当しない。
以上から、
被相続人が支払った入居金の一部に相当する金額については、配偶者が被相続人から贈与により取得したものとみなされ、相続開始前3年以内の贈与として相続税の課税価格に加算される。
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